1NOTE: 2This is a version of Documentation/process/submitting-patches.rst into Japanese. 3This document is maintained by Keiichi KII <k-keiichi@bx.jp.nec.com> 4and the JF Project team <http://www.linux.or.jp/JF/>. 5If you find any difference between this document and the original file 6or a problem with the translation, 7please contact the maintainer of this file or JF project. 8 9Please also note that the purpose of this file is to be easier to read 10for non English (read: Japanese) speakers and is not intended as a 11fork. So if you have any comments or updates of this file, please try 12to update the original English file first. 13 14Last Updated: 2011/06/09 15 16================================== 17これは、 18linux-2.6.39/Documentation/process/submitting-patches.rst の和訳 19です。 20翻訳団体: JF プロジェクト < http://www.linux.or.jp/JF/ > 21翻訳日: 2011/06/09 22翻訳者: Keiichi Kii <k-keiichi at bx dot jp dot nec dot com> 23校正者: Masanari Kobayashi さん <zap03216 at nifty dot ne dot jp> 24 Matsukura さん <nbh--mats at nifty dot com> 25 Takeshi Hamasaki さん <hmatrjp at users dot sourceforge dot jp> 26================================== 27 28 Linux カーネルに変更を加えるための Howto 29 又は 30 かの Linus Torvalds の取り扱い説明書 31 32Linux カーネルに変更を加えたいと思っている個人又は会社にとって、パッ 33チの投稿に関連した仕組みに慣れていなければ、その過程は時々みなさんを 34おじけづかせることもあります。この文章はあなたの変更を大いに受け入れ 35てもらえやすくする提案を集めたものです。 36 37コードを投稿する前に、Documentation/process/submit-checklist.rst の項目リストに目 38を通してチェックしてください。もしあなたがドライバーを投稿しようとし 39ているなら、Documentation/process/submitting-drivers.rst にも目を通してください。 40 41-------------------------------------------- 42セクション1 パッチの作り方と送り方 43-------------------------------------------- 44 451) 「 diff -up 」 46------------ 47 48パッチの作成には「 diff -up 」又は「 diff -uprN 」を使ってください。 49 50Linux カーネルに対する全ての変更は diff(1) コマンドによるパッチの形式で 51生成してください。パッチを作成するときには、diff(1) コマンドに「 -u 」引 52数を指定して、unified 形式のパッチを作成することを確認してください。また、 53変更がどの C 関数で行われたのかを表示する「 -p 」引数を使ってください。 54この引数は生成した差分をずっと読みやすくしてくれます。パッチは Linux 55カーネルソースの中のサブディレクトリではなく Linux カーネルソースのルート 56ディレクトリを基準にしないといけません。 57 581個のファイルについてのパッチを作成するためには、ほとんどの場合、 59以下の作業を行えば十分です。 60 61 SRCTREE= linux-2.6 62 MYFILE= drivers/net/mydriver.c 63 64 cd $SRCTREE 65 cp $MYFILE $MYFILE.orig 66 vi $MYFILE # make your change 67 cd .. 68 diff -up $SRCTREE/$MYFILE{.orig,} > /tmp/patch 69 70複数のファイルについてのパッチを作成するためには、素の( vanilla )、す 71なわち変更を加えてない Linux カーネルを展開し、自分の Linux カーネル 72ソースとの差分を生成しないといけません。例えば、 73 74 MYSRC= /devel/linux-2.6 75 76 tar xvfz linux-2.6.12.tar.gz 77 mv linux-2.6.12 linux-2.6.12-vanilla 78 diff -uprN -X linux-2.6.12-vanilla/Documentation/dontdiff \ 79 linux-2.6.12-vanilla $MYSRC > /tmp/patch 80 81dontdiff ファイルには Linux カーネルのビルドプロセスの過程で生成された 82ファイルの一覧がのっています。そして、それらはパッチを生成する diff(1) 83コマンドで無視されるべきです。dontdiff ファイルは 2.6.12 以後のバージョ 84ンの Linux カーネルソースツリーに含まれています。それより前のバージョン 85の Linux カーネルソースツリーに対する dontdiff ファイルは、 86<http://www.xenotime.net/linux/doc/dontdiff>から取得することができます。 87 88投稿するパッチの中に関係のない余分なファイルが含まれていないことを確 89認してください。diff(1) コマンドで生成したパッチがあなたの意図したとお 90りのものであることを確認してください。 91 92もしあなたのパッチが多くの差分を生み出すのであれば、あなたはパッチ 93を意味のあるひとまとまりごとに分けたいと思うかもしれません。 94これは他のカーネル開発者にとってレビューしやすくなるので、あなたの 95パッチを受け入れてもらうためにはとても重要なことです。これを補助でき 96る多くのスクリプトがあります。 97 98Quilt: 99http://savannah.nongnu.org/projects/quilt 100 1012) パッチに対する説明 102 103パッチの中の変更点に対する技術的な詳細について説明してください。 104 105説明はできる限り具体的に。もっとも悪い説明は「ドライバー X を更新」、 106「ドライバー X に対するバグフィックス」あるいは「このパッチはサブシス 107テム X に対する更新を含んでいます。どうか取り入れてください。」などです。 108 109パッチの説明を Linux カーネルのソースコードマネジメントシステム「 git 」の 110コミットログとして簡単に引用できる形で書けば、メンテナから感謝されるでしょう。 111以下の #15 を見てください。 112 113説明が長くなりだしたのであれば、おそらくそれはパッチを分ける必要がある 114という兆候です。次の #3 を見てください。 115 116パッチ(シリーズ)を(再)投稿する時、十分なパッチの説明とそのパッチが必要な理由を 117パッチに含めてください。ただ「これはパッチ(シリーズ)のバージョン N」とだけ 118書かないでください。そして、パッチをマージする人にパッチの説明を探させそれを 119パッチに追記させるため、過去のバージョンのパッチやそのパッチの URL を参照する 120手間をかけさせないでください。 121つまり、パッチシリーズとその説明は一緒にあるべきです。これはパッチをマージする 122人、レビューする人、どちらのためにもなります。レビューする人の中には、おそらく 123過去のバージョンのパッチを受け取ってもいない人がいます。 124 125登録済みのバグエントリを修正するパッチであれば、そのバグエントリを示すバグ ID 126や URL を明記してください。 127 1283) パッチの分割 129 130意味のあるひとまとまりごとに変更を個々のパッチファイルに分けてください。 131 132例えば、もし1つのドライバーに対するバグフィックスとパフォーマンス強 133化の両方の変更を含んでいるのであれば、その変更を2つ以上のパッチに分 134けてください。もし変更箇所に API の更新と、その新しい API を使う新たな 135ドライバーが含まれているなら、2つのパッチに分けてください。 136 137一方で、もしあなたが多数のファイルに対して意味的に同じ1つの変更を加え 138るのであれば、その変更を1つのパッチにまとめてください。言いかえると、 139意味的に同じ1つの変更は1つのパッチの中に含まれます。 140 141あるパッチが変更を完結させるために他のパッチに依存していたとしても、 142それは問題ありません。パッチの説明の中で「このパッチはパッチ X に依存 143している」と簡単に注意書きをつけてください。 144 145もしパッチをより小さなパッチの集合に凝縮することができないなら、まずは 14615かそこらのパッチを送り、そのレビューと統合を待って下さい。 147 1484) パッチのスタイルチェック 149 150あなたのパッチが基本的な( Linux カーネルの)コーディングスタイルに違反し 151ていないかをチェックして下さい。その詳細を Documentation/process/coding-style.rst で 152見つけることができます。コーディングスタイルの違反はレビューする人の 153時間を無駄にするだけなので、恐らくあなたのパッチは読まれることすらなく 154拒否されるでしょう。 155 156あなたはパッチを投稿する前に最低限パッチスタイルチェッカー 157( scripts/checkpatch.pl )を利用してパッチをチェックすべきです。 158もしパッチに違反がのこっているならば、それらの全てについてあなたは正当な 159理由を示せるようにしておく必要があります。 160 1615) 電子メールの宛先の選び方 162 163MAINTAINERS ファイルとソースコードに目を通してください。そして、その変 164更がメンテナのいる特定のサブシステムに加えられるものであることが分か 165れば、その人に電子メールを送ってください。 166 167もし、メンテナが載っていなかったり、メンテナからの応答がないなら、 168LKML ( linux-kernel@vger.kernel.org )へパッチを送ってください。ほとんど 169のカーネル開発者はこのメーリングリストに目を通しており、変更に対して 170コメントを得ることができます。 171 17215個より多くのパッチを同時に vger.kernel.org のメーリングリストへ送らな 173いでください!!! 174 175Linus Torvalds は Linux カーネルに入る全ての変更に対する最終的な意思決定者 176です。電子メールアドレスは torvalds@linux-foundation.org になります。彼は 177多くの電子メールを受け取っているため、できる限り彼に電子メールを送るのは 178避けるべきです。 179 180バグフィックスであったり、自明な変更であったり、話し合いをほとんど 181必要としないパッチは Linus へ電子メールを送るか CC しなければなりません。 182話し合いを必要としたり、明確なアドバンテージがないパッチは、通常まず 183は LKML へ送られるべきです。パッチが議論された後にだけ、そのパッチを 184Linus へ送るべきです。 185 1866) CC (カーボンコピー)先の選び方 187 188特に理由がないなら、LKML にも CC してください。 189 190Linus 以外のカーネル開発者は変更に気づく必要があり、その結果、彼らはそ 191の変更に対してコメントをくれたり、コードに対してレビューや提案をくれ 192るかもしれません。LKML とは Linux カーネル開発者にとって一番中心的なメー 193リングリストです。USB やフレームバッファデバイスや VFS や SCSI サブシステ 194ムなどの特定のサブシステムに関するメーリングリストもあります。あなた 195の変更に、はっきりと関連のあるメーリングリストについて知りたければ 196MAINTAINERS ファイルを参照してください。 197 198VGER.KERNEL.ORG でホスティングされているメーリングリストの一覧が下記の 199サイトに載っています。 200<http://vger.kernel.org/vger-lists.html> 201 202もし、変更がユーザランドのカーネルインタフェースに影響を与え 203るのであれば、MAN-PAGES のメンテナ( MAINTAINERS ファイルに一覧 204があります)に man ページのパッチを送ってください。少なくとも 205情報がマニュアルページの中に入ってくるように、変更が起きたという 206通知を送ってください。 207 208たとえ、メンテナが #5 で反応がなかったとしても、メンテナのコードに変更を 209加えたときには、いつもメンテナに CC するのを忘れないようにしてください。 210 211小さなパッチであれば、Trivial Patch Monkey(ちょっとしたパッチを集めている) 212<trivial@kernel.org>に CC してもいいです。その現管理者については MAINTAINERS 213ファイルを見てください。ちょっとしたパッチとは以下のルールのどれか1つを満たして 214いなければなりません。 215 ・ドキュメントのスペルミスの修正 216 ・grep(1) コマンドによる検索を困難にしているスペルの修正 217 ・コンパイル時の警告の修正(無駄な警告が散乱することは好ましくないた 218 めです) 219 ・コンパイル問題の修正(それらの修正が本当に正しい場合に限る) 220 ・実行時の問題の修正(それらの修正が本当に問題を修正している場合に限る) 221 ・廃止予定の関数やマクロを使用しているコードの除去(例 check_region ) 222 ・問い合わせ先やドキュメントの修正 223 ・移植性のないコードから移植性のあるコードへの置き換え(小さい範囲で 224 あればアーキテクチャ特有のことでも他の人がコピーできます) 225 ・作者やメンテナによる修正(すなわち patch monkey の再転送モード) 226 2277) MIME やリンクや圧縮ファイルや添付ファイルではなくプレインテキストのみ 228 229Linus や他のカーネル開発者はあなたが投稿した変更を読んで、コメントでき 230る必要があります。カーネル開発者にとって、あなたが書いたコードの特定の 231部分にコメントをするために、標準的な電子メールクライアントで変更が引用 232できることは重要です。 233 234上記の理由で、すべてのパッチは文中に含める形式の電子メールで投稿さ 235れるべきです。警告:あなたがパッチをコピー&ペーストする際には、パッ 236チを改悪するエディターの折り返し機能に注意してください。 237 238パッチを圧縮の有無に関わらず MIME 形式で添付しないでください。多くのポ 239ピュラーな電子メールクライアントは MIME 形式の添付ファイルをプレーンテ 240キストとして送信するとは限らないでしょう。そうなると、電子メールクラ 241イアントがコードに対するコメントを付けることをできなくします。また、 242MIME 形式の添付ファイルは Linus に手間を取らせることになり、その変更を 243受け入れてもらう可能性が低くなってしまいます。 244 245例外:お使いの電子メールクライアントがパッチをめちゃくちゃにするので 246あれば、誰かが MIME 形式のパッチを再送するよう求めるかもしれません。 247 248余計な変更を加えずにあなたのパッチを送信するための電子メールクライアントの設定 249のヒントについては Documentation/process/email-clients.rst を参照してください。 250 2518) 電子メールのサイズ 252 253パッチを Linus へ送るときは常に #7 の手順に従ってください。 254 255大きなパッチはメーリングリストやメンテナにとって不親切です。パッチが 256未圧縮で 300KB を超えるようであるなら、インターネット上のアクセス可能な 257サーバに保存し、保存場所を示す URL を伝えるほうが適切です。 258 2599) カーネルバージョンの明記 260 261パッチが対象とするカーネルのバージョンをパッチの概要か電子メールの 262サブジェクトに付けることが重要です。 263 264パッチが最新バージョンのカーネルに正しく適用できなければ、Linus は 265そのパッチを採用しないでしょう。 266 26710) がっかりせず再投稿 268 269パッチを投稿した後は、辛抱強く待っていてください。Linus があなたのパッ 270チを気に入って採用すれば、Linus がリリースする次のバージョンのカーネル 271の中で姿を見せるでしょう。 272 273しかし、パッチが次のバージョンのカーネルに入っていないなら、いくつもの 274理由があるのでしょう。その原因を絞り込み、間違っているものを正し、更新 275したパッチを投稿するのはあなたの仕事です。 276 277Linus があなたのパッチに対して何のコメントもなく不採用にすることは極め 278て普通のことです。それは自然な姿です。もし、Linus があなたのパッチを受 279け取っていないのであれば、以下の理由が考えられます。 280* パッチが最新バージョンの Linux カーネルにきちんと適用できなかった 281* パッチが LKML で十分に議論されていなかった 282* スタイルの問題(セクション2を参照) 283* 電子メールフォーマットの問題(このセクションを参照) 284* パッチに対する技術的な問題 285* Linus はたくさんの電子メールを受け取っているので、どさくさに紛れて見 286 失った 287* 不愉快にさせている 288 289判断できない場合は、LKML にコメントを頼んでください。 290 29111) サブジェクトに「 PATCH 」 292 293Linus や LKML への大量の電子メールのために、サブジェクトのプレフィックスに 294「 [PATCH] 」を付けることが慣習となっています。これによって Linus や他の 295カーネル開発者がパッチであるのか、又は、他の議論に関する電子メールであるの 296かをより簡単に識別できます。 297 29812) パッチへの署名 299 300誰が何をしたのかを追いかけやすくするために (特に、パッチが何人かの 301メンテナを経て最終的に Linux カーネルに取り込まれる場合のために)、電子 302メールでやり取りされるパッチに対して「 sign-off 」という手続きを導入し 303ました。 304 305「 sign-off 」とは、パッチがあなたの書いたものであるか、あるいは、 306あなたがそのパッチをオープンソースとして提供する権利を保持している、 307という証明をパッチの説明の末尾に一行記載するというものです。 308ルールはとても単純です。以下の項目を確認して下さい。 309 310 原作者の証明書( DCO ) 1.1 311 312 このプロジェクトに寄与するものとして、以下のことを証明する。 313 314 (a) 本寄与は私が全体又は一部作成したものであり、私がそのファイ 315 ル中に明示されたオープンソースライセンスの下で公開する権利 316 を持っている。もしくは、 317 318 (b) 本寄与は、私が知る限り、適切なオープンソースライセンスでカバ 319 ーされている既存の作品を元にしている。同時に、私はそのライセ 320 ンスの下で、私が全体又は一部作成した修正物を、ファイル中で示 321 される同一のオープンソースライセンスで(異なるライセンスの下で 322 投稿することが許可されている場合を除いて)投稿する権利を持って 323 いる。もしくは、 324 325 (c) 本寄与は(a)、(b)、(c)を証明する第3者から私へ直接提供された 326 ものであり、私はそれに変更を加えていない。 327 328 (d) 私はこのプロジェクトと本寄与が公のものであることに理解及び同意す 329 る。同時に、関与した記録(投稿の際の全ての個人情報と sign-off を 330 含む)が無期限に保全されることと、当該プロジェクト又は関連する 331 オープンソースライセンスに沿った形で再配布されることに理解及び 332 同意する。 333 334もしこれに同意できるなら、以下のような1行を追加してください。 335 336 Signed-off-by: Random J Developer <random@developer.example.org> 337 338実名を使ってください。(残念ですが、偽名や匿名による寄与はできません。) 339 340人によっては sign-off の近くに追加のタグを付加しています。それらは今のところ 341無視されますが、あなたはそのタグを社内の手続きに利用したり、sign-off に特別 342な情報を示したりすることができます。 343 344あなたがサブシステムまたはブランチのメンテナであれば、受け取ったパッチを自身の 345ツリーにマージするために、わずかに変更が必要となる場合があります。なぜなら 346あなたのツリーの中のコードと投稿者のツリーの中のコードは同一ではないためです。 347もし、あなたが厳密に上記ルール(c)にこだわるのであれば、投稿者に再度差分を 348とるよう依頼すべきです。しかし、これは時間とエネルギーを非生産的に浪費する 349ことになります。ルール(b)はあなたにコードを修正する権利を与えてくれます。 350しかし、投稿者のコードを修正し、その修正によるバグを投稿者に押し付けてしまう 351ことはとても失礼なことです。この問題を解決するために、末尾の投稿者の 352Signed-off-by とあなたがその末尾に追加する Signed-off-by の間に、修正を 353加えたことを示す1行を追加することが推奨されています。 354(その1行の書き方に)決まりはありませんが、大括弧の中に電子メールアドレスや氏名 355と修正内容を記載するやり方は目につきやすく、最終段階での変更の責任があなたに 356あることを明確にするのに十分な方法のようです。例えば、 357 358 Signed-off-by: Random J Developer <random@developer.example.org> 359 [lucky@maintainer.example.org: struct foo moved from foo.c to foo.h] 360 Signed-off-by: Lucky K Maintainer <lucky@maintainer.example.org> 361 362あなたが安定版のブランチを管理しており、作成者のクレジット、変更の追跡、 363修正のマージ、と同時に苦情からの投稿者の保護を行いたい場合、この慣習は特に 364有用となります。いかなる事情があってもチェンジログに出てくる作成者の 365アイデンティティ情報(From ヘッダ)は変更できないことに注意してください。 366 367バックポートする人のための特別な注意事項。追跡を容易に行うために、コミット 368メッセージのトップ(サブジェクト行のすぐ後)にパッチの起源を示す情報を記述する 369ことは一般的で有用な慣習です。例えば、これは 2.6-stable ツリーでの一例です。 370 371 Date: Tue May 13 19:10:30 2008 +0000 372 373 SCSI: libiscsi regression in 2.6.25: fix nop timer handling 374 375 commit 4cf1043593db6a337f10e006c23c69e5fc93e722 upstream 376 377そして、これは 2.4 ツリーでの一例です。 378 379 Date: Tue May 13 22:12:27 2008 +0200 380 381 wireless, airo: waitbusy() won't delay 382 383 [backport of 2.6 commit b7acbdfbd1f277c1eb23f344f899cfa4cd0bf36a] 384 385どんな形式であれ、この情報はあなたのツリーを追跡する人やあなたのツリーのバグを 386解決しようとしている人にとって価値のある支援となります。 387 38813) いつ Acked-by: と Cc: を使うのか 389 390「 Signed-off-by: 」タグはその署名者がパッチの開発に関わっていたことやパッチ 391の伝播パスにいたことを示しています。 392 393ある人が直接パッチの準備や作成に関わっていないけれど、その人のパッチに対す 394る承認を記録し、示したいとします。その場合、その人を示すのに Acked-by: が使 395えます。Acked-by: はパッチのチェンジログにも追加されます。 396 397パッチの影響を受けるコードのメンテナがパッチに関わっていなかったり、パッチ 398の伝播パスにいなかった時にも、メンテナは Acked-by: をしばしば利用します。 399 400Acked-by: は Signed-off-by: のように公式なタグではありません。それはメンテナが 401少なくともパッチをレビューし、同意を示しているという記録です。そのような 402ことからパッチをマージする人がメンテナの「うん、良いと思うよ」という発言を 403Acked-by: へ置き換えることがあります。 404 405Acked-by: が必ずしもパッチ全体の承認を示しているわけではありません。例えば、 406あるパッチが複数のサブシステムへ影響を与えており、その中の1つのサブシステム 407のメンテナからの Acked-by: を持っているとします。その場合、Acked-by: は通常 408そのメンテナのコードに影響を与える一部分だけに対する承認を示しています。 409この点は、ご自分で判断してください。(その Acked-by: が)疑わしい場合は、 410メーリングリストアーカイブの中の大元の議論を参照すべきです。 411 412パッチにコメントする機会を持っていたが、その時にコメントしなかった人がいれば、 413その人を指す「Cc:」タグを任意で追加してもかまいません。これは指定された人からの 414明確なアクションなしに付与できる唯一のタグです。 415このタグはパッチに関心があると思われる人達がそのパッチの議論に含まれていたこと 416を明文化します。 417 41814) Reported-by と Tested-by: と Reviewed-by: の利用 419 420他の誰かによって報告された問題を修正するパッチであれば、問題報告者という寄与を 421クレジットするために、Reported-by: タグを追加することを検討してください。 422こまめにバグ報告者をクレジットしていくことで、うまくいけばその人たちが将来再び 423コミュニティの力となってくれるでしょう。 424ただし、報告者の許可無くこのタグを追加しないように注意してください。特に、 425問題が公の場で報告されていなかったのであれば。 426 427Tested-by: タグはタグで指定された人によって(ある環境下で)パッチのテストに成功 428していることを示します。このタグはメンテナにテストが実施済みであることを 429知らせ、将来の関連パッチのテスト協力者を見つける方法を提供し、テスト実施者に 430対するクレジットを保証します。 431 432Reviewed-by: タグは、それとは異なり、下記のレビューア宣言の下にレビューされ、 433受け入れ可能とみなされたパッチであることを示します。 434 435 レビューアによる監督宣言 436 437 私は Reviewed-by: タグを提示することによって、以下のことを明言する。 438 439 (a) 私はメインラインカーネルへの統合に向け、その妥当性及び「即応性 440 (訳注)」を検証し、技術的側面からパッチをレビュー済みである。 441 442 訳注: 443 「即応性」の原文は "readiness"。 444 パッチが十分な品質を持っており、メインラインカーネルへの統合を即座に 445 行うことができる状態であるかどうかを "readiness" という単語で表現 446 している。 447 448 (b) パッチに関するあらゆる問題、懸念、あるいは、疑問は投稿者へ伝達済み 449 である。私はそれらのコメントに対する投稿者の返答に満足している。 450 451 (c) 投稿に伴い改良されるコードがある一方で、現時点で、私は(1)それが 452 カーネルにとって価値のある変更であること、そして、(2)統合に際して 453 議論になり得るような問題はないものと確信している。 454 455 (d) 私はパッチをレビューし適切であると確信している一方で、あらゆる 456 状況においてその宣言した目的や機能が正しく実現することに関して、 457 いかなる保証もしない(特にどこかで明示しない限り)。 458 459Reviewd-by タグはそのパッチがカーネルに対して適切な修正であって、深刻な技術的 460問題を残していないという意見の宣言です。興味のあるレビューアは誰でも(レビュー 461作業を終えたら)パッチに対して Reviewed-by タグを提示できます。このタグは 462レビューアの寄与をクレジットする働き、レビューの進捗の度合いをメンテナに 463知らせる働きを持ちます。そのパッチの領域に詳しく、そして、しっかりとした 464レビューを実施したレビューアによって提供される時、Reviewed-by: タグがあなたの 465パッチをカーネルにマージする可能性を高めるでしょう。 466 46715) 標準的なパッチのフォーマット 468 469標準的なパッチのサブジェクトは以下のとおりです。 470 471 Subject: [PATCH 001/123] subsystem: summary phrase 472 473標準的なパッチの、電子メールのボディは以下の項目を含んでいます。 474 475 - パッチの作成者を明記する「 from 」行 476 477 - 空行 478 479 - 説明本体。これはこのパッチを説明するために無期限のチェンジログ 480 (変更履歴)にコピーされます。 481 482 - 上述した「 Signed-off-by: 」行。これも説明本体と同じくチェン 483 ジログ内にコピーされます。 484 485 - マーカー行は単純に「 --- 」です。 486 487 - 余計なコメントは、チェンジログには不適切です。 488 489 - 実際のパッチ(差分出力) 490 491サブジェクト行のフォーマットは、アルファベット順で電子メールをとても 492ソートしやすいものになっています。(ほとんどの電子メールクライアント 493はソートをサポートしています)パッチのサブジェクトの連番は0詰めであ 494るため、数字でのソートとアルファベットでのソートは同じ結果になります。 495 496電子メールのサブジェクト内のサブシステム表記は、パッチが適用される 497分野またはサブシステムを識別できるようにすべきです。 498 499電子メールのサブジェクトの「summary phrase」はそのパッチの概要を正確 500に表現しなければなりません。「summary phrase」をファイル名にしてはい 501けません。パッチシリーズ中でそれぞれのパッチは同じ「summary phrase」を 502使ってはいけません(「パッチシリーズ」とは順序付けられた関連のある複数の 503パッチ群です)。 504 505あなたの電子メールの「summary phrase」がそのパッチにとって世界で唯一の識別子に 506なるように心がけてください。「summary phrase」は git のチェンジログの中へ 507ずっと伝播していきます。「summary phrase」は、開発者が後でパッチを参照する 508ために議論の中で利用するかもしれません。 509人々はそのパッチに関連した議論を読むために「summary phrase」を使って google で 510検索したがるでしょう。それはまた2、3ヶ月あとで、人々が「gitk」や 511「git log --oneline」のようなツールを使用して何千ものパッチに目を通す時、 512唯一目にとまる情報となるでしょう。 513 514これらの理由のため、「summary phrase」はなぜパッチが必要であるか、パッチが何を 515変更するかの2つの情報をせいぜい70〜75文字で表現していなければなりません。 516「summary phrase」は簡潔であり説明的である表現を目指しつつ、うまく 517まとめられている概要となるべきです。 518 519「summary phrase」は「Subject: [PATCH tag] <summary phrase>」のように、 520大括弧で閉じられたタグを接頭辞として付加してもかまいません。このタグは 521「summary phrase」の一部とは考えませんが、パッチをどのように取り扱うべきかを 522表現します。 523一般的には「v1, v2, v3」のようなバージョン情報を表すタグ(過去のパッチに対する 524コメントを反映するために複数のバージョンのパッチが投稿されているのであれば)、 525「RFC」のようなコメントを要求するタグが挙げられます。パッチシリーズとして4つの 526パッチがあれば、個々のパッチに「1/4, 2/4, 3/4, 4/4」のように番号を付けても 527かまいません。これは開発者がパッチを適用する順番を確実に把握するためです。 528そして、開発者がパッチシリーズの中のすべてのパッチをもらさずレビュー或いは 529適用するのを保証するためです。 530 531サブジェクトの例を二つ 532 533 Subject: [patch 2/5] ext2: improve scalability of bitmap searching 534 Subject: [PATCHv2 001/207] x86: fix eflags tracking 535 536「 from 」行は電子メールのボディの一番最初の行でなければなりません。 537その形式は以下のとおりです。 538 539 From: Original Author <author@example.com> 540 541「 from 」行はチェンジログの中で、そのパッチの作成者としてクレジットされ 542ている人を特定するものです。「 from 」行がかけていると、電子メールのヘッ 543ダーの「 From: 」が、チェンジログの中でパッチの作成者を決定するために使わ 544れるでしょう。 545 546説明本体は無期限のソースのチェンジログにコミットされます。なので、説明 547本体はそのパッチに至った議論の詳細を忘れているある程度の技量を持っている人 548がその詳細を思い出すことができるものでなければなりません。パッチが対処する 549障害の症状(カーネルログメッセージや oops メッセージ等)を記載することは問題に 550対処可能なパッチを求めてコミットログを検索する人々にとって特に有用です。 551パッチがコンパイル問題を解決するのであれば、そのパッチを探している人が見つける 552ことができる情報だけで十分であり、コンパイル時の全てのエラーを含める必要は 553ありません。「summary phrase」と同様に、簡潔であり説明的であることが重要です。 554 555「 --- 」マーカー行はパッチ処理ツールに対して、チェンジログメッセージの終端 556部分を認識させるという重要な役目を果たします。 557 558「 --- 」マーカー行の後の追加コメントの良い使用方法の1つに diffstat コマンド 559があります。diffstat コマンドとは何のファイルが変更され、1ファイル当たり何行 560追加され何行消されたかを示すものです。diffstat コマンドは特に大きなパッチに 561おいて役立ちます。その時点でだけ又はメンテナにとってのみ関係のあるコメント 562は無期限に保存されるチェンジログにとって適切ではありません。そのため、この 563ようなコメントもマーカー行の後に書かれるべきです。 564このようなコメントの良い例として、v1 と v2 のバージョン間で何が変更されたかを 565表す「パッチの変更履歴」が挙げられます。 566 567「 --- 」マーカー行の後に diffstat コマンドの結果を含めるのであれば、ファイル 568名はカーネルソースツリーのトップディレクトリからの表記で列記されるため、横方向 569のスペースをとり過ぎないように、diffstat コマンドにオプション「 -p 1 -w 70 」 570を指定してください(インデントを含めてちょうど80列に合うでしょう)。 571 572適切なパッチのフォーマットの詳細についてはセクション3の参考文献を参照して 573ください。 574 57516) 「git pull」要求の送り方(Linus の電子メールから) 576 577間違ったブランチから引っ張るのを防ぐために、git リポジトリのアドレスと 578ブランチ名を同じ行に1行で記載してください。そうすることで、3回の連続クリック 579で全て選択できます。 580 581正しい形式は下記の通りです。 582 583 "Please pull from 584 585 git://jdelvare.pck.nerim.net/jdelvare-2.6 i2c-for-linus 586 587 to get these changes:" 588 589その結果、アドレスを自分自身でタイピングして間違えることはなくなります(実際に、 590何度か間違ったブランチから引っ張ってきてしまい、その時に diffstat の結果を 591検証して間違っていることに気づいたことがあります。どこから何を引っ張るべきかを 592「探したり」、正しいブランチ名かどうかを重ねてチェックしたりする必要が 593なくなればより快適になるでしょう)。 594 595diffstat の結果を生成するために「 git diff -M --stat --summary 」を使って 596ください。-M オプションはファイル名の変更を検知でき、--summary オプションは 597新規ファイル、削除されたファイル、名前が変更されたファイルの概要を生成します。 598 599-M オプション(ファイル名の変更検知)を指定すると、diffstat の結果はかなり 600異なってきます。git は大規模な変更(追加と削除のペア)をファイル名の変更と 601判断するためです。 602 603------------------------------------ 604セクション2 - ヒントとTIPSと小技 605------------------------------------ 606 607このセクションは Linux カーネルに変更を適用することに関係のある一般的な 608「お約束」の多くを載せています。物事には例外というものがあります。しか 609し例外を適用するには、本当に妥当な理由が不可欠です。あなたは恐らくこの 610セクションを Linus のコンピュータ・サイエンス101と呼ぶでしょう。 611 6121) Documentation/process/coding-style.rstを参照 613 614言うまでもなく、あなたのコードがこのコーディングスタイルからあまりに 615も逸脱していると、レビューやコメントなしに受け取ってもらえないかもし 616れません。 617 618特筆すべき例外は、コードをあるファイルから別のファイルに移動 619するときです。この場合、コードを移動するパッチでは、移動されるコード 620に関して移動以外の変更を一切加えるべきではありません。これにより、 621コードの移動とあなたが行ったコードの修正を明確に区別できるようにな 622ります。これは実際に何が変更されたかをレビューする際の大きな助けに 623なるとともに、ツールにコードの履歴を追跡させることも容易になります。 624 625投稿するより前にパッチのスタイルチェッカー( scripts/checkpatch.pl )で 626あなたのパッチをチェックしてください。このスタイルチェッカーは最終結 627論としてではなく、指標としてみるべきです。もし、あなたのコードが違反 628はしているが修正するより良く見えるのであれば、おそらくそのままにする 629のがベストです。 630 631スタイルチェッカーによる3段階のレポート: 632 - エラー: 間違っている可能性が高い 633 - 警告:注意してレビューする必要がある 634 - チェック:考慮する必要がある 635 636あなたはパッチに残っている全ての違反について、それがなぜ必要なのか正当な 637理由を示せるようにしておく必要があります。 638 6392) #ifdefは見苦しい 640 641ifdef が散乱したコードは、読むのもメンテナンスするのも面倒です。コードの中 642で ifdef を使わないでください。代わりに、ヘッダファイルの中に ifdef を入れて、 643条件付きで、コードの中で使われる関数を「 static inline 」関数かマクロで定義し 644てください。後はコンパイラが、何もしない箇所を最適化して取り去ってくれるで 645しょう。 646 647まずいコードの簡単な例 648 649 dev = alloc_etherdev (sizeof(struct funky_private)); 650 if (!dev) 651 return -ENODEV; 652 #ifdef CONFIG_NET_FUNKINESS 653 init_funky_net(dev); 654 #endif 655 656クリーンアップしたコードの例 657 658(in header) 659 #ifndef CONFIG_NET_FUNKINESS 660 static inline void init_funky_net (struct net_device *d) {} 661 #endif 662 663(in the code itself) 664 dev = alloc_etherdev (sizeof(struct funky_private)); 665 if (!dev) 666 return -ENODEV; 667 init_funky_net(dev); 668 6693) マクロより「 static inline 」を推奨 670 671「 static inline 」関数はマクロよりもずっと推奨されています。それらは、 672型安全性があり、長さにも制限が無く、フォーマットの制限もありません。 673gcc においては、マクロと同じくらい軽いです。 674 675マクロは「 static inline 」が明らかに不適切であると分かる場所(高速化パスの 676いくつかの特定のケース)や「 static inline 」関数を使うことができないような 677場所(マクロの引数の文字列連結のような)にだけ使われるべきです。 678 679「 static inline 」は「 static __inline__ 」や「 extern inline 」や 680「 extern __inline__ 」よりも適切です。 681 6824) 設計に凝りすぎるな 683 684それが有用になるかどうか分からないような不明瞭な将来を見越した設計 685をしないでください。「できる限り簡単に、そして、それ以上簡単になら 686ないような設計をしてください。」 687 688---------------------- 689セクション3 参考文献 690---------------------- 691 692Andrew Morton, "The perfect patch" (tpp). 693 <http://www.ozlabs.org/~akpm/stuff/tpp.txt> 694 695Jeff Garzik, "Linux kernel patch submission format". 696 <http://linux.yyz.us/patch-format.html> 697 698Greg Kroah-Hartman, "How to piss off a kernel subsystem maintainer". 699 <http://www.kroah.com/log/2005/03/31/> 700 <http://www.kroah.com/log/2005/07/08/> 701 <http://www.kroah.com/log/2005/10/19/> 702 <http://www.kroah.com/log/2006/01/11/> 703 704NO!!!! No more huge patch bombs to linux-kernel@vger.kernel.org people! 705 <https://lkml.org/lkml/2005/7/11/336> 706 707Kernel Documentation/process/coding-style.rst: 708 <http://users.sosdg.org/~qiyong/lxr/source/Documentation/process/coding-style.rst> 709 710Linus Torvalds's mail on the canonical patch format: 711 <http://lkml.org/lkml/2005/4/7/183> 712 713Andi Kleen, "On submitting kernel patches" 714 Some strategies to get difficult or controversial changes in. 715 http://halobates.de/on-submitting-patches.pdf 716 717-- 718 719 720